寄稿: 奥村智人 大阪医科大学LDセンター オプトメトリスト
学習障害をもつ子どもたちの中には、視力に問題がなく、良く見えているように見えても、実は「見る力」に弱さがあり、本当の意味での見ることが上手にでき ていない子がたくさんいます。読む・書く・計算するなどの学習活動で見るということは非常に重要です。
また、スポーツや野外活動をする上でも、見ることは不可欠です。目の能力に低下があり、上手に見ることができないと、幼児期では、絵が描けない、積み木の形を作れない、パズルが苦手、キャッチボールが苦手など「見る力」が十分機能していない兆しがみられ、就学後に文字がうまく書けない・覚えられない、鏡文 字がある、読みが非常に遅い、算数の図形問題がわからない、球技が苦手などのつまずきにつながるケースが多く見られます。また、「見る力」が十分でないと、見ることに人一倍エネルギーが必要で、近くで物を見る活動、特に本読みを無意識に避けてしまうこともありえます。目の能力の低下は学習の効率を低下させるだけではなく、集中力や注意力にも大きく影響します。
ここでは、「見る力」にはどのようなものがあり、低下するとどのような特徴があらわれるのかを解説します 。
見たものをしっかり認識するためには、まず見ようとしているものを確実に捉え、それをはっきり見る必要があります。私たちの目は何か興味のあるものが視野 の中に入ってくると、最初に「共同眼球運動」という機能をつかって、目標物に両眼の視線を移動します。それと同時に「両眼視」と「調節」をつかって、もの をひとつにはっきり焦点を合わせて見ることができます。
目の奥にある映像を受け取るスクリーン、網膜には、中心窩という視力が極めてよい部分があります。この中心窩でカバーされる部分は非常に狭く、広い視野の約 1.6度と言われています。この部分からわずか数度ずれるだけで、視力は極端に低下します。視覚情報を適切に取り込むためには、両目を動かして中心窩で目 標物を捉えなければなりません。そのために重要な役割を担っているのが共同眼球運動です。共同眼球運動は左右の目が同じ方向に向かう動きのことです。
共同眼球運動には二つの種類があります。ひとつは、ゆっくり動くものを追視する追従性眼球運動(Pursuit)です。これは動体視力の基礎になる能力で、動いている目標物を見て認識したり、自分が動いているときに目標物を見たりするときに重要な役割を担います。
もうひとつの共同眼球運動は、あるポイントから違うポイントに視線をジャンプさせる衝動性眼球運動(Saccade)です。これは、視野の中に入ってきた興味を引く目標物が何であるか確認したり、何かを探したりするためにおこなわれる眼球運動です。
目の動きは、人間の体の中で最もすばやいと言われています。視線を物に向けるということは、情報を取り込み、それに対応するための第一歩です。
この機能に弱さがあると、本を読むときに大きな障害となり、行や文字を頻繁に飛ばして読む、内容が理解しにくいなどの症状がみられることがあります。
共同眼球運動能力に弱さがあるときに見られる特徴 |
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人間には目が二つあり、それらから常に二つの映像が脳に送られています。それなのに、私たちは世界をひとつの映像として見ています。これは両眼がうまく連携 して視線の角度を見るものに合わせ、脳がそれら二つの映像を処理しているからです。遠くを見るときには両眼の視線はほぼ平行になっており、近くを見ている ときには両眼の視線は内側に向けられ寄り目になっています。両眼視によって、物をひとつに見ることができるだけではなく、両眼の視線の向きによって見てい るものの細かい遠近感や立体感を得ることができます。映画や本などで特殊な眼鏡を使って絵が浮き上がって見えるのは、この両眼視の機能を利用したもので す。
両眼のチームワークが完全に崩れている「斜視」という状態がありますが、そこまでいたらなくても両眼のチームワークが悪い状態になっていることがあり、気づかないところで学習などの作業効率を低下させていることがあります。
この機能に低下があると、疲れたときに物がダブって見えたり、一つに見るために多くのエネルギーを必要とするので、頭痛や肩こり、子どもの場合だと自然に近くの作業を避けるということにつながります。
両眼視に弱さがあるときに見られる特徴 |
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私たちの目は常に、見ているものの距離にあわせてピント合わせをしています。目の中にあるレンズの形を変化させることにより、常に焦点を合わせてものをはっきり見ています。
この能力に低下があると、疲れたときにものがボケて見えたり、はっきり見るために多くのエネルギーを必要とするため、頭痛や肩こりがおこったり、自然に近くの作業を避けたりすることにつながります。
調節に弱さがあるときに見られる特徴 |
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ここまで説明してきた、目から情報を取り込む機能(眼球運動、両眼視、調節)で映像が上手に取り込まれたら、その映像を分析・統合して見たものが何なのか を理解し、他の機能と連携しなければなりません。私たちは目だけで見ているのではなく、脳や他の感覚もつかって見ているのです。
目から入った情報はすべて点と線、それに色によるものです。見ているものを認識するには、それらをただの点と線の集まりでなく、点と線からなる何かの形であ ると分析することが必要です。脳は線の傾きや長さ、線同士の角度や重なり合いの関係を一瞬で処理し、ある形として理解する働きを持っています。それに加 え、脳は見ているものの中で、その人が見たいものだけに意識を向ける能力を持っています。それによって、見たいものや見なくてはいけない部分にだけ注意を 払い、見なくてもよい背景を無視することができます。これらが視知覚という能力です。
文字や漢字などは、線が組み合わさった図形です。図形を線からなるひとかたまりのものだと認識できないと、なかなか覚えられません。また、算数の図形の問題も困難になります。
視知覚に弱さがあるときに見られる特徴 |
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目から入った情報は、常に体を動かす機能と連携しています。特に目と手の協応は、学習やスポーツ、その他の活動に非常に重要です。目と運動機能の連携がうまくいっていないことが、不器用さの原因になることがあります。
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